不動産では売買契約を成立させるために、購入価格の約10%相当の手付金を支払うことが多いです。しかし、この手付金を搾取しようとするケースが多く、不動産業者には宅建業法上、法務局へ保証金として1,000万円を供託するor特定の保証協会へ保証金を預ける必要があります。非常に残念なことに、客から預かった手付金を運転資金等に使い込んだり、ネコババしてとんずらする業者が後を絶たないため、このような制度となっています。ここでは詐欺を疑うべきポイントと回避方法、2020年に私が体験した詐欺手口を紹介したいと思います。
「供託所等に関する説明」が重要事項説明書にあるか
物件を購入するときに、売買契約書と重要事項説明書に署名捺印しますが、結論としては事前に次の2点を必ず押さえておきましょう。特に②を怠ると致命傷を負いかねません。
①重要事項説明書に「供託所等に関する説明」があるか確認し、なければ詐欺の可能性を疑いつつ、記載するよう求める。それでも記載を渋るようなら、売買は止めておきましょう。
②「供託所等に関する説明」の記載内容が合っているか、その仲介業者が所属している各保証協会のホームページで確認し、免許番号、住所、電話番号等についても一致するか確認しましょう。
今回私が詐欺にあったケースでは、「供託所等に関する説明」の項目がありませんでしたが、仲介業者が正式に保証協会に所属していることを確認していたため、手付金が戻ってきました。
手付金狙いの詐欺の場合、この「供託所等に関する説明」が省略されて記載されていないと思います。というのも、不動産売買が成立せず手付金を失った場合、ここに記載されている保証協会や法務局へ連絡・相談し、正式な手続きをすることで手付金が返還されるからです。保証協会や法務局へ相談し、正式な返還手続きをすることを弁済業務といい、弁済手続きをされると宅建業者は保証協会や法務局から呼び出しを受けます。宅建業者は法務局からの呼び出しは当然として、保証協会の会員である限り、保証協会からの呼び出しにも拒否できませんので行かざるを得ず、当然事情聴衆されます。つまり、手付金狙いで手付金をだまし取ったとしても、保証協会へ駆け込まれたら、手付金を返さざるを得ない訳です。もちろん宅建業者としての信用も落ちますので、保証協会の会員で居られなくなる可能性も十分にあり、そうなると法務局へより高い保証金を預け入れないと宅建業者として事業を継続できなくなります。
詐欺業者は買付者から手付金を搾取した後、音信不通になることが多いです。そうなったときに何の知識もない一般人だと弁済手続きの方法も知らないため、泣き寝入りするケースがあります。詐欺業者はこの泣き寝入りパターンを狙っていると思われます。今回は保証協会に所属している業者であったため手付金を回収できましたが、保証協会にも所属しておらず、法務局にも保証金を預けていない宅建業者として免許を受けていない業者であった場合は、手付金を回収するのは無理だったと思います。
また保証協会を通じて手付金を回収する場合でも、約半年かかりますので、非常に労力と時間を消費してしまいます。そのためにも①を確認し、労力と時間のロスを回避しましょう。私は上記の確認事項①を怠ったため、詐欺業者にローン審査していると嘘を付かれ、約4ヶ月間という投資時間を失いました。しかし、詐欺業者へ保証協会を通じて弁済手続きを開始すると通告したところ、翌日に手付金が返金されたため、それ以上の時間ロスや手付金の損失を回避できました。②については確認していたため、手付金を失うという最悪の事態は免れました。
不動産投資を始める前に宅地建物取引士を取得していたのですが、こういうところで活きるとは思ってもいませんでした。
重要事項説明書と売買契約書を面前で説明しているか
これも宅建業法上決められていますが、重要事項説明書は面前で宅地建物取引士が免許証を提示して説明する必要があります。基本ではあるのですが、今回私のケースでは、業者の提案で電話での重要事項説明をOKしてしまいました。本当はダメですが、事前に内容を確認していた&経験があるという慢心から、電話でも大丈夫だと高をくくっていました。それが仇となり、詐欺に気づけず、無駄な時間を費やしてしまうという結果に繋がりました。
上記のようなことから、電話での説明を提案してくる業者は詐欺を疑うようにして下さい。
ちなみに今回の詐欺のケースでは、宅地建物取引士の欄には仲介業者とは全然関係ないと思われる人物の名前が記載され押印されていました。こういうところからも察知できたと思うと、割安物件だと息巻いていた自分が恥ずかしい・・・
ちなみにですが、私の経験では重要事項説明書に記載している宅地建物取引士と実際に説明を行う宅地建物取引士が異なることは何回もありました。本当は問題があるのですが、取引が盛んな業者の場合、その担当者が客の都合のいい時間にどうしても説明に行けないケースがあり、臨時でその上司が出向いて説明するケースも結構あるとのことで、その上司の名前で契約書を記載しているとのことでした。こういった生半可な知識や経験があったため、今回の詐欺に遭いました。重要事項説明書に宅地建物取引士として署名捺印することは、宅地建物取引士にとってはリスクでしかないので、それを理解した上で署名捺印しているため、そこまで問題にならないと思いますが、重要事項説明書のドラフトが出てきた時点で、当日の説明者が本当に来るのかは事前に確認しておく方がいいでしょう。また、説明者と署名捺印の人物が異なる場合は、理由等を確認するとともに本当にその署名捺印者がその仲介業者で働いているのかも確認しておくべきです。(その仲介業者のHP等でスタッフを確認できる場合やメールが代理で送られてきたことがある場合などで確認できた場合など。)
手付金の領収書は発行されるか
通常、手付金を支払うときに手渡しと銀行振込の2種類方法があります。以前このブログでも手渡しで領収書なしのケースは絶対に回避するよう書きましたが、銀行振込であれば領収書なしでも問題ないのでしょうか?結論から言うと、銀行振込であっても手付金の領収書は必ず貰いましょう。
今回の私のケースでは、売買契約書に「銀行振込にて手付金を支払うため、領収書の発行は省略する」と記載されていました。確かに金融機関を通じて振込をすると金融機関はそのことを証明してくれますが、振込の証明書を発行するとなると一手間掛かることが多いです。保証協会からは、振込履歴を証明するものがありますかと必ず確認されますが、このときに通帳の1行の記載だけでは厳しいようで、相手の口座番号まで提示する必要があるとのことでした。私はネットバンクを使っていたため、速やかに提出が可能でしたが、ATMや窓口で振込んだ場合にその振込結果の用紙を紛失していたら、銀行へ正式な書類の発行を依頼する必要があり、時間と手間がかかります。
以上のことから、売買契約書に「銀行振込にて手付金を支払うため、領収書の発行は省略する」といった文言が記載されている場合は、詐欺を疑った方がいいでしょう。私としては、印紙代を節約するために効率的な運営をしていると良心的に解釈していましたが、まともな業者であれば100万超えの大金を預かったら領収書もしくは預り証を発行するのは当たり前です。例え銀行振込であっても発行して貰いましょう。それを渋るようであれば、取引は中止した方がいいです。
売買契約書と重要事項説明書は速やかに返却されるか
通常、売買契約書と重要事項説明書は買主から先に署名捺印することが多く、売主が署名捺印するために一旦仲介業者が預かることがほとんどだと思います。また仲介業者がローンを斡旋する場合、最終的に両者の署名捺印がある状態でコピーを取って、金融機関へ提出する必要があるので、一旦仲介業者に回収されることがほとんどです。しかし、ローンの審査申込が開始されれば原本は必要ないため、通常はこのタイミングで買主へ返却されます。
今回の詐欺のケースでは、業者から「ローン審査後の金消契約でも原本が必要であり、審査が2~3週間で終わるため金消契約日に返却する」と言われ、OKしてしまいました。ローンの審査完了がコロナを理由に何回も延期されたことから次第に違和感を感じたものの、業者から原本を回収する目立った理由もないため、原本が手元にない状態が3ヶ月以上継続しました。これにより売買契約書と重要事項説明書の原本がないという弱みから、疑わしいと思いつつも仲介業者に対して強い態度を取ることが出来ませんでした。また、融資審査先の金融機関に直接連絡を取りたかったものの、仲介業者からは斡旋ルートに支障が出るため連絡はNGだと釘を刺され、上記弱みを握られている状態であったため、なかなか金融機関へ確認することが出来ませんでした。
以上のことから、詐欺業者への対処としては次の2点を実施しておくことで回避できます。
①重要事項説明書と売買契約書の原本は、ローンの審査中は不要なため、たとえローン審査期間が短期間であったとしても返却するよう求める。仲介業者が渋るようであれば、説明を求めればいいと思います。また金消契約締結日に必要な場合でも、自分で持参する旨を伝え、必ず返却して貰いましょう。
②売主が先に署名捺印していた場合は、自分が署名捺印すれば売買契約書と重要事項説明書は効力が生じますので、仲介業者へ原本を渡す場合は署名捺印後にコピーorスキャンしておきましょう。そして、ローンの斡旋についても原本ではなくコピーで可能ではないか確認しましょう。
(私の経験では、審査であればコピーで問題ないところがほとんどだと思います。さすがに金消契約締結日には、原本を見せて欲しいと言われると思いますが)
金融機関へ状況を確認する
詐欺の場合、金融機関へローン審査など依頼していませんので、金融機関へ問合せをすれば一発で判明します。そのため、詐欺業者は金融機関へ直接連絡しないよう色々な嘘を平気で付きます。審査期間が当初よりも異様に長い、審査が終わったのに金消契約締結日がなかなか決まらない等、不審な点が多い場合は直接金融機関へ問合せしましょう。もし本当に審査をしていて遅い場合は、その仲介業者との関係は壊れる可能性が高いですが、連絡が遅かったり、審査状況を正確に連絡できない業者はストレスが溜まるだけですので、取引はその回限りにして気にせず切り捨てましょう。融資をしてくれる金融機関は貴重ですが、仲介業者は世の中に山ほど居ますので大丈夫です。
今回は詐欺を回避するポイントをオレンジの見出しにして記載しましたが、どれも基本と言えば基本になります。ローンの斡旋をする仲介業者に依頼する場合、全て業者を間に通すことになるため情報がコントロールされてしまいます。そこに注意しつつ、疑わしいと思ったら、業者抜きのルートで情報を確認したり、書類の原本を持っておくことや証拠を揃えておくことが重要です。
この記事が少しでも詐欺の回避に役立てばと思います。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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